太陽魔術                                                                               

常に自分と共にあるもの
<コメント>
をはり
父の著書「太陽魔術」は、「生命光体」と「心体感情」の2編で構成されており、前編の「生命光体」はここで終わっています。
父は「終り」は「をはり」と書きます。
古文辞書で調べてみると、なるほど「をはり」となっていました。
ワ行は整理心、まとめる心型、ハ行で開いていたものをまとめる、閉じるの意でしょうか。
良くわからないままに、書き写し、良くわからないままに終りが来てしまいました。
同種の著書「日本語ノーベル賞」に次のような言葉が書いてありました。


 
父は若い学生さんに期待を寄せていたようです。
このわけのわからない奇妙な研究から何かを感じ、何かを発見していただければ幸いです。

(引き続いて後編「心体感情」もWeb化の予定です)

 「甥が家出をしました.女のところにゐるんだッて」と告げられたのは年明けての二月である。
男は、ベンベ村の浜べにある飲み屋の階段をあがッた。
座敷には若者と女がゐて、女からは「どうも、すみませんでした」と、正しいお礼と、あやまりとをいはれる。
女の叔父も、型の赤ら顔をしてゐた。
電話が鳴る。

「甥御をこっちへつれてきてください」との騒ぎだ。
 一同、だんだん坂の道をのぼって、冬の内浦湾が一望にみえるその家へつく。

その家の主人、元村議はとをあはせた顔をして、玄関まで迎へにでてゐて如才がない。
ゐろりをかこんでの相談になった。
「なにしろナ、まづ女が飲み屋にゐること、それと女の歳が、だいぶちがッてゐること。
親たちは,しどろもどろの態でナ。とりみだして、うろうろですわい」と、一服つける元村議のキセルは長い。

女の叔父がそこヘロをはさむ。
「相手の皆さんへ、ごめいわくをおかけしてはいかん。こまツたことをしたゾ」
「まあ、まあ、それにつけても若いうちは夢中ぢゃがナ。五十を越したときになったら、あまり歳のちがふのは、これヤ、どうかナ。
とくに女親のほうは生娘が晴着をきて嫁にくるのを夢みてたちゅうて泣いてきてる。
それは、まア、かまはんとしてですヨ。ここは、わしら年長者が一考させるべき、ともおもふがナ」

と.元村議が上身をそらせて、決着をさそふと、「ごめいわくをおかけするようなら、身をひいてよいのです」
女のほうが、もう風のをさまりを待つように、腰をすゑるのも早い。

男は.女ごころを感じとッてから.若者のほうに聞いた。
「どれほどの、つきあひかなア」
「一年と.すこし」
「外泊もあったか」
「ほかの街へ行きたい」
これを聞くと、男には、メラメラッと情熱がわいた。
叔父たちが、説教して攻めるほうからまはったのに、男は、ここでも、味方になってかばふほうへまはった。

「みなさん、本人は、この街にもゐたくない気持になってゐるようですがネ。ここで二人をはなして、あたらしい嫁をもらツてあづけたあとに、蔭で二人があふと言ふことが、起らないかどうかこの保証ができますかネ」
「なるほどナ」
元村議は腕ぐみをして.煤けたけた天井をにらむ.
「ここは二人を一緒にさせて、そこから、こはれるものなら、こはれます。こうしたことは、本人がやッてみようとおもふならここをやらせてみたらいかがですか。
やらせてみて、それでこはれたら、納得も諦めもついて、あたらしい前進がはじまるのではないですかナ。
こはれるものは本人たちに、こはさせろ、と、僕はおもひます」
 
「わかった。そうしよう。では。式はいつぢヤ。わしも、公私共に多忙でナ」
元村議には信望があるから、萬事ひきうけて心配はない。
「よろしく、どうぞ」と、女の叔父が頭をさげたところで解決となッた。
 
男は。とうに性を知った女にきかせる。
「結婚とは、お互ひに受け入れることだろう。受けいれないことがかさなると、こはれそうになる、と、僕はおもふヨ。しツかりやッてちョうだいョ。いいかネ。」
「ハイ」
女が。手をついてむせびだした。

男は、人をみるときに、その人はどんな鋳型をもつ人か、から考へるようになツた。
学校の先生をしてゐた人の話は、先生を経験した鋳型がお話をしてゐるとみて、聞くようにした。
記者をした人の話は記者とゆふ鋳型が物を言ってゐるのだとおもッて聞くようにした。
離婚をした人の話は、離婚を経験した鋳型が、いばってしゃべってゐるとおもった。

若者たちの話は、まだ結婚生活の鋳型もよくつくられてゐない。
会社を設立した経験の鋳型もつくられてゐない。
教育と理論の鋳型で、いばってしゃべる、と、きこえてくるようになった。
およそ自分にないものと共鳴することはできない。
給料とりは給料とりの鋳型がおほきいし、商人は金もうけの鋳型がおほきいし、それぞれの鋳型が、いばって、自分の鋳型の主張をしゃべる、と、みえた。

人々の鋳型は、遺伝と教育と環境と経験とに、つながってゐるとみえたし、その遺伝をつづけてきた生物は.太陽系現象鋳型につながり、宇宙現象鋳型につながってゐるとみえた。
これらの鋳型に入れられてしまった生命は、不滅無量完成の生命光体とする原基へとさかのぽって行く。
男には.その生命光体とする原基が、この地界へきて太陽系鋳型にいれられて、十心型をもつ生物にされたと聞こえてきてゐる。

(昭和三十二年の春をむかへてゐました。
男は、こうした辿りかたをして,太陽魔術の世界を見ることになったのです。)

                                  (ここでまとめとし)(ひらいて)(やる)
                                      
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