太陽魔術                                                                               

感情体文字(その2)
<コメント>
この文の中には「現行仮名遣い」という言葉と「現代仮名遣い」という言葉が出てきます。
ここでいう「現行仮名遣い」は、今でいう旧仮名遣いを指しており、「現代仮名遣い」が、今使われている新仮名遣いを指しているようです。
父の文は旧仮名遣いに近いものですが、声の感情という視点から父が見た独自の仮名遣いとなっており、これを「感情仮名遣い」と名付けておりました。 

 こうして男は。声の感情の文字をかんがへるようになってしまった。

(この翌年のことだが、昭和三十一年度の「言語生活」七月号に、日本文芸家協会調査、「文芸家は国語国字問題をどぅ考 へているか」があった。
その全八十頁も現代かなでづってあったが、この調査の前をきに、亀井勝一郎は「・・・御検討ねがます。・・・な この発表に関する責任は私あります。・・・・」と、氏の文だけが、従来からの現行かなづかひと言はれたもので、つづら れてあるのを、男は見つけてゐる。

この調査の回答を男は興味ぶかくよんだ。

「現代かなづかいぱ、どんな点で検討を要すると考えますか。
a 完全に発音通りになっていない。50名(29%)
b 原則が一貫していない。73名(42%)
c 旧かなづかいと違いすぎる。11名。
d 字音かなづかいに止めるべきだ。24名。
e 適用範囲を限るべきだ(たとえば、新聞教育……)15名。
f その他、11名。
 
「あなたの原稿を、新聞、雑誌などの編輯者が、現代かなづかいに書き改めることについて、どう思いますか。
1 望しいものとして認める。40名(23%)
2 やむを得ないものとして認める。76名(44%)
3 条件つきで認める。16名。
4 許さない。5名。
5 場合によって認めることもあり、認めないこともある。23名。
6 無答。6名
 
などのところをよんで。男はこうおもった。

女心は、科学かなづかひに賛成するだろう。
男心は、芸術かなづかひに賛成するだろう。
植物心は、表面かなづかひに賛成するだろう。
動物心は、内面かなづかひに賛成するだろう。
学者心は、写真かなづかひに共鳴しよう。
芸術心は、絵画かなづかひに共鳴しよう。
静心は、物質かなづかひに共鳴しよう。
動心は、感情かなづかひに共鳴しよう。

二つが平行してすすむのこそ、動と静の現象界のなかでの正しいすすみかたのはずだと男にはおもへた。

男には.人の躰の構造は世界中おなじなのだろうから、おなじ構造の感情体が叫ぶコトバに、おなじような声のつづりのコ トバがたくさんあるはずだと、なってきた。

男は和英辞書と首っ引きし、アイヌ語と首っ引きし、日本のコトバは.大正十二年、小学校卒業のときにいただいた「学生 自習標準辞典」一冊をたよりにした。
この表紙はちぎれて無かったが、たよるものはこの一冊よりない。

「老人は家宝だ」とをしへた医師がゐた。
北海道の夏はそれほど暑いものではなかったが、そのころに老女が倒れて床についた。
「九十才のお歳は、もう。家宝だヨ。おだいじにしてあげてくださいヨ」と。医師ののこしたコトバに、男はナルホドと気 づいた。
たしかに九十才まで生きるのも容易ではあるまいナ。

だが、その老女は。まもなく、やすらかに死した。
「シヌ」、男は(シ)不滅へ(ヌ)分けてはいった」とゆふコトバをみつけた。
「シヌ」とは、(シ)原基へ(ヌ)分けてはいった」となって、往生した、往きて生れると、でてきた。
その死相をみつめてゐたとき男は、もう一つのことに気がついたのだ。
死相の色.生命が脱出して行った色だろう。
肉体物質とゆふ雑をすてて行った色だろう。
整理して、さわやかの「わ」になって、ワ行の整理心の声をさけんで、己へ戻る、原基へもどる、生命へもどって行った 色ヵ。
生れたときに、ア行の発出をさけんで、死ぬときに.雑をすてるワ行の整理をさけんだとゆふ声と色とを、男は真剣にさぐ ってゐた。
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