太陽魔術                                                                               

後日談
<コメント>
「男女おとぎばなし」の項の冒頭に、父がヤクザ男とのトラブルの仲裁を頼まれた記事がありましたが、これはその後日談です。
この中に出てくる父の学生時代のエピソードは私も子供の頃に聞いたことがありました。


男は、チンピラ山本があばれこんだ日から、なか一日をいて、彼のすまゐをたづねた。
しらふのときの山本は、自分から立ッてきて障子をあけて、「さあ.どうぞ」と、おとなしい。
 
「どうしたノ」
と、男は、すわるなり聞く。
「俺のことを、あることないこと言ったからサ」
「ああ、そうか。それはいかんナ。ところで山本君、僕は学生時代に.こうしたことがあったんだヨ。友達がネ、先生のこ とを新聞に投書したんだナ。学校の汚名を世間にさらしたとゆふ事になツて校内の大問題になってネ。
同級生は百名以上あったが、この友人を、どう処置したらよいかで、協議になった。
(みんなで.なぐれ)とゆふ声が、はじめの意見として、でてきたのサ。」

山本は.お茶をだして、うつむいて、すなほにきいてゐる。

「学校の汚名かしらんがネ、百名がゲソコツでなぐツたら、おもしろ半分なぐるのもゐるだろう。
うっ血がおきたりサ、痛みがでたりサ、僕は.これはいかん、と、おもったのかネ。
僕はこのとき、スーツと、立ちあがツてゐたヨ。僕は躰もやせてゐたし、ケンカなんかしたこともないのサ。ロクに話もしなかったヨ。
それが、フラッと立ったヨ。
頭に血がのぼってゐたんだナ。
そして、こう叫んだ。
(友人は、まちがったのだ。誤りをやらかしたんだ。もし君らに、今後、まちがツたことをしない。誤りをやらかさない。
と、そう言へる人がゐるなら、その人が、友人をなぐれ!)と、口から出てきたネ。

僕は、そうさけんで、スーッと腰をおろしてしまった。
そのとき、すこしのあひだシーンとしたヨ。
級長が、(その意見にはかなはないナ)と、うなづいた。
結局、他の者の意見もあツて、友人は全校生のまへで頭をさげること、で、この事件のしまつつけたッたナ」

男の話が赤く燃えだしたようで、笑ひごゑもでてきてゐる。
「僕はネ。この世の中は、お互ひに生きてゐるからには。隣近所、仲よく暮すよりしかたのないところだ、我慢もいるし、 妥協もいるし、それに、時間もかかるしネ。」

すると、山本が。つぶやくように、
「俺は、まだ、世間の経験があさいから。すみませんでした。」
と言ッた。
「いやいや、君の歳ぐらゐの時代は、暴れる奴ほど見込みがあるのサ。
ただネ。自分が痛いものは相手も痛い、人の力は同等だ。
相手をやっつけたら、いつか、なにかで、自分もやツつけられる、と、僕はみるネ。
僕はネ、人の中心の力は、みんな同一だ、ただ、いま外にでてゐるか、いま中にかくれてゐるか、ダ。
僕は、そうおもふヨ。
どうだナ。みんなで、お茶でものもうサ」
「ハイ」
翌日、山本の家には、五十男も若夫婦もきてくれて、みんな、うちとけてゐた。
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